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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)765号 決定

抗告人(右第七六五号事件)

渋沢八郎

右代理人

安藤貞一

抗告人(右第九〇二号事件)

河野龍男

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

理由

本件各抗告の趣旨は、いずれも「原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求める。」というのであり、抗告人渋沢の抗告理由は別添「抗告の理由」記載のとおりであり、抗告人河野の抗告状には抗告の理由書は追つて提出する旨の記載があるが、その提出はない。

抗告人渋沢の抗告について。

本件記録に徴すれば、本件競売事件の債務者である株式会社ヴアデムが、債権者である竹中商事株式会社に対し、昭和五四年七月二五日付、同月二七日債権者に到達の内容証明郵便により、抗告人主張の約束手形三通額面合計四五三万一五〇〇円の手形債権を自働債権とし、債権者の請求債権(手形債権四〇一万九四〇一円及び内金一〇五万一四〇一円に対する昭和五三年一月一七日以降、内金二九六万八〇〇〇円に対する同月一日以降右各支払済みまで日歩八銭の割合による遅延損害金)中右手形債権四〇一万九四〇一円を受働債権として対等額において相殺する旨の意思表示をしたことが認められるが、手形債権を自働債権とする相殺は手形の交付をその効力発生要件と解すべきところ、抗告人が、右相殺に供したと主張する約束手形三通を債権者に交付したことを認めるに足りる資料はないから(本件において受働債権額は自働債権額を超える。)、抗告人のした相殺がその効力を生じたものということはできず、債権者の請求債権が消滅したとする抗告人の抗告理由は採用し難い。本件記録を精査しても、他に原決定を取り消すべき違法の点は見出しえない。

抗告人河野の抗告について。

本件記録を精査しても、原決定を取り消すべき違法の点は認められない。

よつて抗告人らの抗告をいずれも棄却することとし、主文のとおり決定する。

(小林信次 鈴木弘 河本誠之)

抗告の理由

一、本件不動産競売事件の債務者(以下債務者という)は債権者振出の別紙約束手形目録記載の約束手形三通を所持し、債権者に対し、その金額合計金四、五三一、五〇〇円の約束手形金債権を有している。

又債権者は本件競売申立の執行債権として、債務者に対し、約束手形金債権金四、〇一九、四〇一円を有し、いずれの約束手形も支払期日を経過している。

二、そこで、債務者は昭和五四年七月二五日付内容証明郵便にて、前項記載の債務者に対して有する約束手形金債権を自働債権とし、債務者が債権者に対して負う約束手形金債務を受働債権として、対当額にて相殺する旨通知し、同通知は債権者のもとに同年七月二七日到達した。

三、よつて債権者の執行債権は相殺により消滅したので、本件競売手続を続行する理由なく、競落許可決定を違法として取消し、更に本件競売手続を取消した上、本件競売申立を却下するとの決定を求める。

約束手形目録〈省略〉

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